ルパン三世短編小説「告白のチャンスは一度」
すみません。突然ですが、REDの話の仕込がまだできません。ヒロインの絵がまだ描けないので。かわりにGREENの短編をお送りします。
そのうちに「ちょっと気になるヒロイン」特集が完成すると思います。
ルパン三世短編小説「告白のチャンスは一度」
「援軍はいつくるんだ?」
「もうそちらに向かってるはずです、警部。」
「エリートじゃなく、職人なんだろうな。」
「そりゃもう、現地に精通したS・W・A・Tなみの精鋭だそうです。」
「よし。」
宿の電話を切った銭形は、愛用の煙草をくわえ、火をつけようとした。
開け放たれた2階の部屋の窓からふと見ると、小さな安宿に客がひとり入っていった。
ここはアンデス山中チチカカ湖のほとり。南米ペルーの大都市、クスコから100キロほど北へいった山中のとある町。
町とは名ばかりで、携帯電話の電波すらこない山麓にへばりついた家並みの一角、小さな宿の一部屋に、銭形はもう3日ほど投宿していた。
例によってルパン三世の足取りをたどってここまでやってきた。しかし、この2~3日の間、奴の消息がプッツリと途絶えてしまっていた。
こんな寂れた町にやってくるような客は彼くらいなものだろう。近辺の宿に泊まっている客からルパン一味を探し出すのはそう難しいことではなかった。よそ者がやってくれば町中に知れ渡るほどの町だからである。
今しがた入ってきた客のことを知ろうとして、受話器を取った。
が、そいつはすでに部屋の入り口に立っていた。地元の人間と寸分かわらないポンチョをはおり、土色のジャケットを着て、麦藁帽子の男。
「や、これは。」
他に言いようがない言葉を発して、そばにあった粗末な椅子を勧める。援軍とはどうやら彼のことらしい。思ったより早い到着だ。
彼は戸を閉めると、帽子を取った。
長い髪がさらりと肩に落ち、中から現れたのはブロンドだった。
「初めまして、ニッポンのゼニガタ。」
彼はしばらく、その援軍と思しき奴の姿に見とれた。
端正な顔立ち。彫りが深く赤銅色の肌。まるでブロンズでできたギリシャ神話の女神。英語が流暢に話せるところを見ると、土地の者ではないようだ。
「そうだが、君は、、。」
「CIAから派遣された麻薬取締捜査官、ジョアン・スミス。」
「女性か。」
「仕事に関係がないことはお答えする必要あり?」
「いや、ただその、、、、、俺は女の相棒は、、、その、、好かんのだ。」
銭形の脳裏にかつての苦い経験を思い出させる美貌。かつてICPOにいた美人局長との恋(?)の破局、信頼する部下と思い込んでいた女刑事の裏切り。
新米のその女刑事は、実は裏の世界のボスだった。あの時はテロリスト集団を率いる冷酷無比な女に、うまうまと騙されていた自分につくづく愛想が尽きた。
あれ以来、彼は女、とくに清純そうな美しい女には用心深くなった。
美しい女ほど、刺された時の棘は痛く、死に至るほどの猛毒を放つ。
あれほど女好きのルパン三世が、今まで女に手を出して死なないのは、女に対する一種の「免疫」があるからだ。銭形はそう信じていた。でなければ峰不二子などという猛毒の、クラゲのような女に、あんなに刺され続けて死なないわけがない。
自分は奴のような免疫は持ち合わせていない。数十年かかってやっと気付いた。俺と奴の決定的な違いを、、。
女とはもう組むまい、、。
「ご心配なく。私も男は好きじゃないの。」
華やかな顔立ちとは似あわず、そっけない。ポンチョを脱ぎ捨て、タートルネックセーターとスラックス姿でテーブルにあった写真に目を移す。
そこには赤いキスマークを頬につけられ、ふにゃけたサル面の男と、仰向けで煙草をくわえ、拳銃を自分に向けている髭面の男、なぜか顔を赤くしてこちらを覗き込んでいる侍の写真があった。
「一番最近の3人の写真だ。どこかで見かけなかったか?」
「昨日、ふもとの町の市場で3人連れの老人に会ったわ。姿は土地の人間に似せてるけど、言葉が微妙に違っていた。挙動もおかしかった。」
「短期間にそこまで捜査するとは、さすがだな。」
「私の任務はあなたを無事に目的地まで送りとどけること。ルパン三世とかいう泥棒の逮捕はあなたの仕事よ。」
「そんな簡単な仕事に、あんたを駆り出したCIAは人手が足りなくて困ってるそうじゃないか。ヤク(麻薬)の売人はもう捕まえたのか?」
「この任務に関係すること意外、ノーコメントよ。でなきゃ、私の替わりに、アンデスの山歩きにぴったりのヤク(ヤギに似た家畜)をあなたの道案内にするわ。」
階下でパン、パンという音がした。爆竹か何かを宿の入り口で鳴らしているようだ。
銭形、何事かと思って窓の側に寄った。彼の頬を何かが掠めた。後ろを振り返ると穴が2つ3つあいていた。実弾だ!
「スミス、ふせろ!」
言うより先に彼女は素早く拳銃を抜いて、壁に沿っていって、窓際にはりついた。二人して窓の両側から外をうかがう。
「あなた、日本人だってことを誰かに話したわね。」
そういえば昨日酒場で飲んでいたら、誰かが話しかけてきた。酔った勢いでジャポネだと。
ルパン三世って名の知れた泥棒をもう○十年追ってる警官だと、つい彼らしくもなく身の上をしゃべってしまった。あの男が親しげに、家族の話やら、故郷に帰ってきたところだとかなんとか身の上話を始めたからだ。
「何かいけなかったか?」
途端に雨のように降って来る弾丸。土壁がどのくらい身を守ってくれるのか不安だった。そばにあった分厚い丸テーブルを倒して窓際に立てかけ、身を伏せる。彼女は窓際にはりついたままだ。
「ここじゃ、無駄なおしゃべりは命取りにもなるのよ。」
「俺みたいなビンボー警官の財布を狙って金儲けか!」
弾の音でうるさくてたまらないので、大声でどなる。ハチの巣のように穴が無数にあく白壁。
「静かに!こっちの居所を分からせちゃだめよ。敵が何人いるのか分かるまでは発砲はしないで。」
落ち着いた声が返ってきた。銭形は彼女がその道のプロだと分かった。
「よし、手分けして調べよう。、俺は階下へおりて奴らの居場所を探る。お前はそこから見える範囲で人数を確認しろ。ここから動くなよ!」
「もう遅いわ、囲まれてる。」
一斉射撃がやんだ。煙がたちこめた階下を見ると、10人以上の男がこの宿を取り囲んでいるのが見えた。他の客はもうどこかへ連れ去られてしまったのだろうか。
「おい、ジャポネ、外に出て来いよ、そこにいるのは分かってるんだぜ。」
ヘタクソな英語で男が言った。
出てこうとする銭形を彼女は引き止めた。
「待って、窓から姿を見せて、何かしゃべって時間を稼いでちょうだい、その間に私が裏へ回って馬を用意しとく。」
「名案だ、俺がもし撃たれたら君はそのまま逃げろ。」
「奴らはあなたを撃たないわ。」
「?」
「人質を殺したら儲けにならないもの。」
「あいつらの狙いはそれか?」
「日本人は儲かるのよ。知らなかったの?ここらは南米中を拠点にしてる山賊団のアジトがあるのよ。あなたを人質にすれば高額な身代金が取れる。」
彼はこの時初めて、この異国の地へ何の下調べもなく飛び込んだことを後悔した。貧しいがのどかなこの山村で、まさかこんな銃撃ざたが起こるなんて信じられなかった。
日本やヨーロッパの町並みが懐かしかった。さっきまでかいでいた新鮮な空気、ヤクの匂いがするやさしい空気は危険な火薬の匂いとともにどこかへ吹き飛ばされ、ニューヨークのスラムのような悪意と緊張に満ちた、ここは異郷だった。
次回には続きません。(笑)この話はファミリーに向かないお話ですので。銭形のファンの人だけ続きを読んでもいいですよ。
右のサイドバーにある長編小説が読めるサイト入り口からお入り下さい。完結編があります。
なお、この話は第3弾の長編に繋がっています。。
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