(11) 合言葉
俺は殺し屋じゃない。今さら金で雇われて人殺しなんかする気は毛頭ない。ただルパンの消息を確かめておきたかった。あいつらの言うことが出任せかどうか知りたい、ルパンがほんとにどっかに連れ去られたなら、仲間になったふりして行方を捜し、救い出すつもりでいた。
あの一味はギャングやシンジケートではない、何か巨大な組織を感じさせた。俺を拉致し、解放するまでの鮮やかな手口は、今まで出会ったどんな凶悪な組織のやり口にも似ていなかった。
誰を殺そうというのか。そもそも暗殺の手段が他になかったのだろうか。あんなに巨大な組織なら、銃で撃つ以外の何らかの手が打てるはずだ、俺を薬で殺さなかったのも不思議なくらいだ。
アジトに誰か入ってくる音が聞こえた。この場所を知ってるなら不二子かルパンしか考えられない。
明かりをつけずにソファーに寝転んでいた次元は、戸口に立っている男に聞いた。
「合言葉。人生は?」
「華麗なる暇つぶし。」
「俺の好きな野球チームは?」
「レッドソックス。」
「お前の好みの女のタイプ。」
「女なら誰でもいい。」
「よし、入りな。ついでに明かりつけろ。」
ルパンが明かりをつけようと入り口の壁にあるスイッチを押した。とたんにガタンと大きな音がして、入り口の2畳分の床板が落ち、ぽっかり穴があいた。彼らのアジトには必ずこの仕掛けがしてある。
「お前やっぱりネズミだな。」
次元が穴に向かって覗き込む。ネズミは穴にはかかっていなかった。腕時計の明かりで穴を探す次元の真上から覆いかぶさってきた。敏捷に天井にはりついて助かったらしい。見たらやっぱりルパンだった。
「あ、わりい、わりい、そこにいた?」
次元にサルのようにおぶさるルパン。
「お前、自分で仕掛け作ったの、忘れちまったのかよ。」
「ああ、そうだったな。」
「おかしな奴だな、お前、誰かにとっ捕まったって聞いたぜ。」
「誰に?」
「お前がパンツ一丁で写真に写ってるとこみたら、もしかって思ったのさ。」
シケモクくわえながら、あったことを話した。次元はルパンに話せば、謎を解く鍵を与えてくれるはずと考えていた。ルパンも空港で逃げた状況と、不二子の裏切りについて話した。
「お前を捕まえた組織と俺を捕まえ損なった連中は違うな。」
次元の相手は、ガルベスの手下にしては手際が良すぎた。それに簡単に開放してくれたのには何か裏がある。
ルパンはそれ以上何も言わず、部屋の奥にある金庫に向かった。
「欲しかったのは俺たちなのか、俺たちの持ってる情報なのか、、。」
「それを確かめるためには、博士に会って、あの地図を解読してもらうより、手はねえんじゃねえかな。」
ルパンは黙って金庫についてる装置にセキュリティコードをインプットし、電子ロックのかかっている金庫を開けようとする。しかし、なぜか開けられない。
「おととい、コードかえたっていったろ。」
「そうだな、で何番だったっけな。」
「何言ってんだ、モンローのパンティの色って、お前が決めたくせに。」
「そうだな、で、何色?」
「、、、、。」
次元は黙って金庫の真ん中にあるもうひとつのダミーのダイヤルを示す。泥棒よけに作った見せかけのダイヤルだ。
「こいつを回せ。」
「?」
「回せば分かる。」
ダイヤルを回すと、金庫の扉が簡単にあいた。中を覗き込もうとしたルパンの真上から、強力なワイヤで出来た巨大な網が、蜘蛛の巣のように襲ってきた。そのまま蜘蛛の巣はルパンをすっぽり包むと、天井の四隅から立ち上がった強力な、しなう竹のような鉄の柱にハンモックのように吊り上げた。
まるで地引網に引かれた魚か、それともタコつぼにはまったタコだ。
「おい、何すんだよ、次元。」
「気安く呼ぶな、ボウズ。性懲りもなく、俺たちのアジトにもぐりこんでまた地図を盗もうってんなら、見当違いだ。」
「チクショウ、気づいてたのか。」
「好きな野球チームはマリナーズで、色はWHITEだ。」
「いつ変えたんだ。」
「お前が逃げたあと、ルパンがメールで決めた。」
「女の名前は合言葉か。」
「泥棒なら、簡単に開く金庫なんか信用しねえこった、ボウズ。」
「ボウズなんて呼ぶな、不二子の居所を教えるから、こっから出してくれ。」
「その前に正直に言いな、不二子とつるんで、博物館から地図を盗んだのはおめえか。」
「、、そうだ。」
「その地図はどこにある?」
「不二子が持ってった。」
「嘘つけ。おめえがそんなドジ踏むか。」
「俺じゃ地図が読めねえ、不二子が解読できる人に頼むんだ。」
「ルパンに渡した地図はニセモンか、どっちだ。」
「俺が盗んだやつさ。ニセモンに決まってるだろ。もともと、奴が持ってたのがニセモンなんだから。」
「お前の親父はそういわなかったぞ。」
「何で知ってる?」
「俺がルパンだからさ。」
「、、、。」
「なわけねえだろ。おめえが正直に話してくれれば、俺も無茶なことはしねえ。俺たちはシロートさんには迷惑をかけねえ主義なんだ。」
「、、、」
「どうした?」
鋼鉄の網の中でもがいていた奴がうめき声をあげ始めた。形状記憶合金でできたこの網は、もがけばもがくほど稲縄かコルセットのように強力に体を締め付けて、身動きできないようにする仕掛けになっていた。締め付けられすぎて若造は息ができなくなってきていた。
「頼む、、。」
次元は苦しむ人間の顔を見続けることができない男だった。金庫のダイヤルを元に戻すと、網は底の部分がさらりと解けた。どさりと床に転がる新米の泥棒。
よく見ると、仮面をはいだ顔の、自分の若い頃そっくり、ふてぶてしく、どこか飢えた瞳がこっちを向いていた。
「おめえじゃルパン4世にゃ役不足だな。」
こめかみに銃を押し付けながら言う。
「うるせえ、さっさと殺せ!」
「まだ、聞きたいことがある。おめえが返した地図、ルパンがもともと持ってた物だとして、何か地図のことで不二子に聞かなかったか。」
「別に。」
「不二子が持ってるのはおめえと一緒に盗み出した地図と、ルパンから取り上げた地図だが、他に地図を持ってるとか、、、。」
「俺が知ってるのは「博士」って人しか、あの地図が本物かどうか分かる人はいないってことだ。不二子はその人のところにいる。」
「なるほど、でお前は何で、金庫の中身が知りたいんだ。」
「あの地図は全部ニセモンだ、それに3枚揃わなけりゃ、意味がないんだ、つまり俺にニセモンを掴ませ、残りの一枚ももう手に入れてるんだろーが。」
「中見てみろ。」
次元は立ち上がって、セキュリティコードをインプットし、ダミーの脇にある本棚の形をした本当の金庫の蓋をあけて中を見せた。
空っぽだった。
「罠にはめたな。」
「という事になるのかな。」
次元にそっくりな若者はとたんに跳ね起きて次元に蹴りをかました。が、空発。敏捷によけた次元は持っていたマグナムでそいつの頭と腕を思い切り何度も殴った。力なく崩れおれる青二才。
「修行してきな、若いの。」
「ニセモンつかまされた不二子が黙ってると思うかい。」
へらへらと笑い、切れた唇の端をなめながら言う。
「あれは本物じゃねえ。俺は何度も調べた。あぶり出しだって事までは分かってたから、丹念にあぶって。だが、浮き出た地図はどこの国の地形でもない、出鱈目だ。キャプテンクックの印のドクロもない。」
「おめえが分かるのはそこまでさ。俺たちは上をいく。今度俺たちにちょっかいだせば、命の保証はねえぞ。」
「俺は何度でも来るさ。お前らが地図を解読して、お宝を掘り出す前に、寝首をかかれねえように気をつけな。」
次元は嘯く男の口に銃口を突っ込んだ。喉の奥へ押し込む。
「いいか小僧、この道に足を突っ込むなら、ハンパにするな。お前の命を守るモンは口じゃねえ、ビビッてる間に尻の穴からでも逃げ出す方法考えるんだ。」
物も言えず、目を白黒させてる男を蹴り倒した。
「あばよ、ボウヤ。家業ついでギャングにでもなっとけばお前を殺さずに済むかもな。」
蹴り倒された男は再び反撃に出た。ナイフ片手に無謀にも向かってきた。次元はうんざりしたといったふうに手を振った。
「まだやるのかい、ママのお膝に座って甘えたほうがいいんじゃねえか。」
投げつけたナイフが次元の頬をかすめ、後ろの壁に突き刺さった。マグナムの口から火が出て、天井のボタンに弾が当たり、水ではなく激しく煙が出始めた。火災報知機が鳴った。部屋に煙が充満したと思ったら、次元は消えていた。
あいつは邪魔な俺を殺すことも、捕まえてサツに突き出すこともできた、、、。
ルイスは初めて、今まで出会ったこともない強大な敵に身震いした。
「おもしれえ、ルパン三世に次元大介、お前らを絶対超えてやるぜ。」
にやりと笑ってカラ元気。
次回に続く。
次元母の会、友の会その他熱烈な次元ファンのあなた、申し訳ございません。大変下品な次元を書いてしまいました。本来の彼はもっとフェミニストで繊細な、ダンディな男です。今、危機に瀕して神経質になってるだけです。
こんな話はいやだ、、なんて思わないで最後まで読んで気を取り直してくれや。かっこいいシーンこの先用意してるかんな。
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