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ルパン三世長編小説第3弾「見果てぬ夢」(23)

(23)泥棒VS女スパイ

結局、カフェでの夕食の約束をすっぽかしてしまった。めったに人との約束を破ったことのないカレンだったが、急に仕事が入って待ち合わせ場所に行けなくなってしまった。断りのメールを送っても、相手はしょっちゅうメルアドを変えているらしくて連絡がつかなかったのだ。

帰りがけに自宅のポストを見ると、ルパンの手書きの招待状が入っていた。またしても真紅のバラの花束が添えられて。

あきれるほどしつこい男だ。でもすっぽかした分の埋め合わせだけはしなくては。

正装でと書かれていたので、彼女の持ってるのでは最高のドレスを身に着けて来た。

今夜の夜空の色、踝まである無地のシルクサテンのドレス。照明の当たり方によって銀河が流れるように、岸辺の小波のようにきらきら光っている。

ふわりと羽織った薄地のストールの下に白い肩が透けているが、それほど大胆に胸元はあいていない、上品な仕上がりだ。

アクセサリーはパールネックレスだけ。仕事柄アクセサリーは邪魔になることがあるからだ。

「こないだは待たせて悪かったね。」

ビル最上階、高級レストランの入り口にあるVIPルームで待っていたカレンが目を上げると、レモンイエローの花束を持った白いタキシード姿の男が、人懐こい笑顔を浮かべて立っていた。

胸に小さな生花のコサージュをつけた申し分ないスタイル、イケ面と言ってもいい程の男だ。

誰かしら、まさか彼じゃないと思うけど。

「あの、、。」

「やあ、お久しぶりです。これナマの俺ですけど、、、、分かる?」

手を出して握手を求めるイケ面男。

「あなた、、、、この前の人?」

化かされてる気分のカレン。

「実はルパンに化けたゴリラだったりして。」

彼の瞳が茶目っ気たっぷりに踊っている。

そもそも最初の出会いが悪すぎた。安宿でナンパする男と引っ掛けられる女だもの。目の前にいる男はどう見ても資産家の御曹司か、メルセデスベンツなんかを乗り回す大会社の若社長といったところ、多分イタリア系だわ。

カレンは今までこんな豪奢なホテルのレストランに一人だけ招かれたことがなかった。

ここはラスベガスでも有名なシェフが取り仕切る超高級レストランだ。金曜日だというのに広いフロアに人は思いのほか少なく、窓側は二人の貸切状態。実はルパンが窓側10テーブルを借り切っていた。

最上階の一番窓側の席から、カジノの街の「1000万ドルの夜景」が宝石のように煌いているのが見える。

ルパンに花束を渡され、エスコートされて予約の席についたカレンは何となく落ち着かない。

椅子を引いてくれて席に着いた時から最後のデザートまでの2時間、映画か夢の中のような時が過ぎた。

テーブルの中央の丸いワイングラスの中に色とりどりのキャンドルの炎が燃えて、ファンタスティックだ。

最後のメニューが運ばれてくるとフロアの灯りが落とされ、窓の外の市街地の灯りが二人の足元に絨毯のように広がった。

「あなたとの取り引きがまだすんでなかったわ。」

フルコースのディナーが終わるや否や持って来た資料を渡そうとする。

「もういいんだ。それ、口実。」

「何の?」

「君に見せたいものがある。」

「見せたいもの?」

「こっち来て。」

ルパンがカレンの椅子を引いて窓際へ誘う。足元まである窓だ。外に広がる宝石をばらまいたような光の絨毯と煌く星を並んで見つめる。今夜は晴天、どこまでも澄み切った夜空だ。

「きれいね、、。」

カレンはため息をつく。それ以外の言葉が見つからない。

「だろ。ここがベガスで一番の場所なんだ。君と一緒に見たかった。」

しばらく二人で眺める。

彼がいつの間にかカレンの腰を包むように抱き、彼女は自然に寄り添う。

が、ふとカレンは我に返り、彼の腕を振りほどく。窓のそばに離れて立つ。

「あなた、私を味方に引き入れて何をしようとしてるの?」

「俺の顔、そんなに極悪人って書いてある?」

後ろからそっと寄って、彼女の栗色のストレートヘアに触る。今日はアップにして後ろでまとめている。おくれ髪がサラ、となびいて、右の耳の後ろにそっと何かが触った。彼女がちょっと緊張するのが分かる。

「これ似合うよ。今夜の君は最高だ、とても警官には見えない。」

彼が胸の生花を彼女の髪にそっと挟んでいた。香りのよいフリージア。もちろん発信機などは付けてない。

「あの時は必死だったから、、。」

「君に会いたくてあれからずっと馬鹿みたいにつけ回してた。」

「泥棒なのに警官をつけ回すの?」

「泥棒だからさ、君のハートを盗みたい。」

後ろから再び髪に触ろうとした彼からすり抜けるカレン。

「あのね、あなたに助けてもらって感謝してる、だけど仕事の付き合いよこれは。」

「これからは仕事抜きに付き合うっての、どう?」

「考えとく。」

「君、スパイにも警官にも向いてない。」

「あなたこそ、こんな人生してたら命がいくつあっても足りないでしょ。」

「この前君ん家からの帰りにあいつらにすれ違った。何とかまいたが、今度行ったら嗅ぎ付けられて君も危ないかも。」

「恨まれるような、何したの?」

「まあね、恨まれるって程じゃないが、あいつらの金塊320トン(約9600億円相当)頂いちまって。」

「彼らはそれを取り戻そうとしてるの?」

「いや、もうない。」

「どこへ、、、」

「ばらまいちまった。世界中の良い子のクリスマスプレゼントに。」

データに記されていた。世界的な海賊、広域テロ組織に指定されているあの「スターゲイト」が世界中から集めて隠そうとした金塊を、まんまと盗み出し一夜にして世界中にばらまいた男。

ではこれは怨恨による復讐なのか。

しつこく毎日のようにルパンを尾行する男たちは、同じようにしつこく足繁くカレンの家に通い詰める彼の足取りを追って、いつか彼女の事も知るに違いない。命の危険は彼と同じくらいある事になる。

「で、頼みがある。」

「たまに食事をするのはいいけれど、5分おきにメールくれたり、毎日家へ花束を届けるのはやめてくれる?」

「君の命が危ないんだ。俺と一緒にある場所へ避難してくれないか。」

何処へと言いかけた途端、ルパンの携帯のコール音がした。見知らぬ男からだ。

「ルパン、俺たちをコケにしてのうのうと生きていられると思うな、今度こそ終わりだ!」

夜景を映し出していた厚い窓の向こうに、黒光りの飛翔する物体が見えた、それは二人の立っていた場所の真向かいで静止した。

「伏せろカレン!」

分厚いガラスが粉々になって飛び散った。ルパンはカレンの体の上に被い被さって身を守った。迷彩色のヘリが真正面から機銃掃射してきた。レストランの客やスタッフの上げる悲鳴。エレベータに向かって避難を始める。

ルパンは機敏に彼女の前にテーブルや椅子を組み倒した。自分もその後ろに隠れながら、相手の様子を覗う。ほんの数十秒の間、掃射がやむ。カレンを抱き起こし、フロアの反対側にあったエレベータに向かって走る。

「こっちに乗れ!」

右端をさす。3台のうちの右端はVIP専用。直通で下まで降りられる。ただし4名までしか乗れない小型だ。

ルパンはVIP専用のカードを持っていた。カードでドアを開けた。二人が乗ろうとすると、隣のエレベータには従業員など人がいっぱいだった。一般のエレベータの方に乗れそうもないお客が4名ほど取り残されてこっちを見ていた。

「早く!」

その時カレンが辛そうな顔をしてルパンを見た。

自分たちだけこれに乗ってはだめ。

彼女の瞳がそう言っていた。2人がそのままぐずぐずしてると、4人が先にVIP用に乗りこんでしまった。もう満員だ。

ルパンはカレンの腕を引っつかむと別の道へ回った。あとは階段を行くしかない。二人は屋内階段を駆け下りた。

最上階といえ28階しかない、そう思って油断したのがいけなかった。屋上に降り立ったヘリから、階段を通じて悪漢が追いかけてきた。カレンを連れ、回り階段を必死で駆け下りる。

上から数人の男が弾をぶち込んでくる。駆け下りながら応戦するルパン。

ここで弾切れだ。いったん階段の隅に隠れて、弾を装填しながらカレンに言う。

「先に地下へ降りてて、これ車のキー、行けば分かる。今からアジトに向かう。」

「私も持ってる。」

カレンが自分の愛銃ブローニングを見せる。

「先に行ってくれ、頼む!」

カレンは後も見ずに一人で非常階段を駆け下りた。彼なら大丈夫だ。

途中で悲鳴が聞こえ、誰かが吹き抜けを下まで落ちていったが、そっちに目を向けないで駆け抜けた。

彼じゃない、絶対に。

1階から地下のガレージに抜けた。彼のキーには番号がついている。キーレスエントリー式の車だ、鍵が開いた車が彼のに違いない。

広い地下ガレージを走り回ってどの車かを確かめようとした

駐車場の通路を横切ろうとした彼女の前にハイスピードで灰色の車が突っ込んできた。とっさに身を翻したが、すんでのところで轢かれるところだった。その車から2人男が下りてきてカレンを追いかけた。

ドレスにハイヒールでは追いかけっこに勝ち目はない。ゆっくりと手を上げて降参するふりをした。向こうが女一人と思って油断したその隙に一人の顎を蹴り上げ、ひっくり返って落とした男の銃をさらに遠くに蹴飛ばし、もう一人の男が銃を自分に向ける前に言い放った。

「女一人になんてザマなの?」

一瞬の隙をついて、男より早く彼女の愛銃が火を噴いた。心臓ではなく肩を打ち抜かれて男はそばの柱にすがりついた。素早く手錠をかけ、柱に縛り付ける手際はさすがCIAだ。

その瞬間、彼女が弾よけにすがっていた真っ赤なオープンカー、ポルシェのロックが解除された。鍵についてる番号と足元に書かれている番号が同じだ。

跳び乗って鍵を鍵穴に差し込むと、自動でどこかにランプがつき、車止めがコンクリートの床下に沈んだ。車を発信させ、出口に向かう。

もう一人の敵が再び彼女を追いすがる。

と、100メートル先の駐車場の出口でポルシェと同じ派手な色のジャケット姿のルパンが立っていた。

良かった、無事だった。

彼を乗せるためにアクセルを緩める。

ところが彼は懐からワルサーP38を取り出し、真正面にいるカレンに向かって狙いを定めた。

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片方の眉を吊り上げ唇の端を曲げた男、あれはニセ者?

いいえ、絶対に本人だわ。すると初めからこれは彼の計略だった。私を油断させ、ここで始末するために。

、、、、だったらやるしかない、、。

緩めたアクセルを再び踏んだ。フルスピードで突っ込んでいく。むろん轢き殺すつもりなどない、相手がどんな凶悪犯であっても。

車で突っ込めば避けるに決まってる。それが彼女の狙いだった。

対するルパン、片手でワルサーを構えたまま全く動じる気配はない。

キューン!

弾の発射とともにカレンは身を伏せ、そのままルパンの直前でブレーキを踏んだ。

地下駐車場に怪物の悲鳴のようなタイヤの軋み音が響きわたった。

次回に続く。

この小説は特に女性に楽しんでいただけるように書きました。でも男にも面白いシーンが次回あるかんな、乞うご期待。

ほいじゃま。

テロ組織「スターゲイト」とルパンの確執は、俺の創作小説「炎のたからもの」をお読みいただけば分かります。まだ読んでない君は、右サイトバーにある小説のサイト入り口から入ってお読み下さい。10編の作品、どれも傑作です。自分で言うのも自慢ですが。

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