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ルパン三世長編小説第3弾「見果てぬ夢」(25)

(25) 恋のかけひき

「ほんとに連絡しなくてもいいのか?」

「ええ平気よ。もう本部じゃ裏切り者ってレッテル貼られて、あなた以上のお尋ね者になってるわ。」

「じゃ、君の腕を見込んで手伝って欲しい事があるんだ。」

「私が?」

国営カジノの地下1階、つまり二人の愛の巣の上の階で、かつてのカジノ中央管理ルーム。ここも今ではルパンのアジトの一部になっている。

全世界のギャングや泥棒、海千山千の悪党のブラックマーケットが集まるベガスの、まさか国営カジノの地下にこの大泥棒の秘密のアジトがあるとは、FBIでも気づかないだろう。

ここなら日本にある大型銭湯の地下アジトより安心だ。警察に踏み込まれる恐れもないし、出口を間違って女湯に紛れ込む心配もいらない。

カジノの営業を円滑にするために、何百箇所に配置された隠し監視カメラの映像を映し出すハイビジョンTVが何十も備え付けられている部屋。ルパンのアジトとなった今もまだ稼動している。あの勝鬨橋の近くの「紅屋」の地下の十倍の規模の設備が備わっていた。

たびたび命を救ってくれたルパンに、カレンは感謝以上の感情を持った。少なくとも彼は体を張って彼女を助けたと信じているに違いない。

だが実は、ルパンを誘惑して籠絡し、味方についたと見せかけて行動を逐一報告する指令を受けていた。つまり恋人になったと思わせ、ルパンのこれからの計画と宝の地図の秘密を探り出す任務だ。

ハネムーンのような甘い関係を偽装しながら、後ろめたい気持ちと彼に惹かれていく気持ちでカレンは日々揺れ動いていた。

今夜の二人はちょいとシビアに、これからの盗みの計画を練っていた。カジノのTV映像を部屋全体に映し出しながら、ルパンのノートパソコンの画面に見入った。

「どう思う?この映像。」

「一体これ、どこなの?」

「ZEDの中にある古い病院の跡。つまりペンタゴン・CIAが持ってるかつての医学的な研究資料や秘密の開発薬品、生物兵器の倉庫の名残ってわけさ。」

空撮した巨大企業の敷地全体の写真や、たくさんの建物の配置、建物の建築見取り図、設計図、3Dで示されたそれぞれの建物の空調施設、排水管、電気系統の配線図、ガスや水道の配管。

つまり泥棒が盗みに入る前に調べておくあらゆる情報が立体映像になって一つのファイルに収まり、最も適切な侵入ルートを示す線が赤く光って示されていた。

「こんな極秘のデータをどこから盗んできたの、ルパン。」

「この情報が信頼できるかどうか調べて欲しいんだ。」

「待って、この空撮写真は簡単に手に入るわ、私は本部の情報管理室にいたことがある。もしかしたらサイトに侵入して、パスワード入れればこのデータの一部が取れるかも、、。」

彼女はてきぱきとサイトにアクセスし、プロの腕で15分ほどかけてデータを探した。

「あったわ、同じファイルの一部。どうやらデータは本物みたい。ZEDにあるCIA管轄の、かつては軍の病院やCIAの研究施設のあった建物の地下。

今は戦争に悪用されては困る生物兵器、劇物や秘密の開発薬品が厳重にしまってある地下倉庫よ。

でもこのパスワードでもこれ以上詳しいことは調べられないわ。サイトを開けられないようにすごいセキュリティがかかってる。」

彼女はふと、ルパンの目がきらきらし、じっと彼女を見つめているのに気づいて微笑んだ。

「どうしたの?」

「すごいんだ、君って。悪党や泥棒なんか捕まえる仕事より、ネットで商売すれば世界中を相手にできる。いい男が言い寄って来るぜ。」

「でもここへ入り込むのは至難の業よ。」

画像を見ながらさらに情報を引き出すカレン。

「へ~えそうなんだ。よく見せてよ。」

言いながらカレンの肩に後ろから手を置き、彼女が振り向いた弾みにキスしようとする。

そうはさせまいと体をそらして避けるカレン。

「この基地に入るまでにレーダーで探知されてしまうのよ。例え内部に入れても何十ものセキュリティを突破しなけりゃ。」

「それも君に協力して欲しいんだ。」

いかにルパン三世と言えど、ギャングや一般企業とはケタ違いにセキュリティや防衛施設が整っているCIAの秘密基地に潜入するのだ、相当の計画を練らなければならないだろう。

おそらく世界一難攻不落の、最高水準のハイテクな技術力を持った施設に、潜り込もうというのだ。

「こんなデータを一体どこから手に入れたの?」

「ナインシュタインが博物館に置いたニセ地図の羊皮紙の中に、マイクロチップが埋め込んであった。それがこれさ。」

「あなたが盗み出すのを知ってて?」

「俺に盗み出させたかったのさ。こんなに厳重な金庫にしまってある、ある物を。」

「彼の経歴は見たでしょう。あそこの主任研究者なのよ。それなのに自分で持ち出すことができなかったの?」

「奴はCIAに何かの理由でマークされてる。怪しまれるような事をして、国家反逆罪にでもなったらこれまでのキャリアが台無しになるんだろ。この男を知ってる?」

ルパンが差し出したのは、かつての宿敵「白乾児(パイカル)」の顔写真だった。

「十数年前、俺はこの男にすんでのところで殺られるところだった。この男はその当時全く知られていなかった技術で俺を脅かした。

体に塗った薬品のおかげで、弾を通さない超硬質の皮膚を持っていた。俺はその謎を解き、奴の持ってた化学式で合成した薬を全身に塗っていたおかげで命が助かった。このデータには、なぜか、あの薬の化学式が添付されていた。」

「本部で過去の内部の犯罪者のファイルを整理したことがある。確かZEDの、当時は軍専属の病院から特殊な薬品を盗んで、行方不明になった男の履歴を整理したことがあったわ。その男に似てるかも。」

「名前は分かるか?」

「よく憶えてない。確か日本人で、、、カリタとかカバタとか、、。」

「鎌田?」

「そうそう、そんな名前。」

日本人、多分あの化学式と薬を盗み出した男。優秀な研究員だった男が、なぜキャリアを棒に振ってまで盗み出さねばならなかったのか。

「その病院での過去の研究とか、入院患者とかのリストは調べられる?」

「できなくはないけど、、、かなり高度になるわね。産業スパイどころじゃない犯罪行為になるけど、、。」

「やってくれよ。」

「、、、、あのね、あなた私を何だと思ってるの、泥棒の片棒を担がせる気?」

彼を振り返り、腕を組んで言うカレン。口調とは裏腹に目が笑っている。

「もと優秀なCIAエージェント。今は泥棒の恋人兼普通の女の子、、、、になりかけてる。」

今度は肩をおさえ逃げられないようにして、ま正面から額にキス。

「自惚れてるのね。」

再び背を向けて、画面を見つめたまま、後ろに手をのばして彼のモミアゲを触る。

「普通の女の子に戻るんじゃないのかい?この仕事が終わったら。」

後ろから首筋や両頬にキス。カレンがその気になるまでありとあらゆるサインを送る。

「じゃ私にも、協力してちょうだい。」

パソコン画面を見ながらそれ以上キスさせまいと彼の頬に手をあて、彼が掴んでいる片手を振りほどいて言う。

「何を?」

「前に話してた行方不明になってる父を探し出すの。あの巨大基地で働いてて、行方が分からなくなった、、、。」

「お!」

カジノの様子を映し出してるTV画面をチラリと見たルパンが声を上げた。

「父つあん!なーんでこんなとこまで来て遊んでんのオ~。俺を捕まえに来たんじゃねえのかい。」

画面に映っているのは、カジノのルーレットで馬鹿勝ちし、山のような札とチップかかえて高笑いしている銭形だった。がらにもなくタキシード姿。蝶ネクタイがダサすぎ。

何と隣には美しくドレスアップした女まで連れている。

「いやあ、父つあんもやるねえ。」

イカサマなんてワザ、父つあんに出来っこない。でも俺でさえ、あそこまで勝つのは実力では無理だ。

よく見たらその隣で笑いながら父つあんにキスを浴びせているのは、いつかアンデスで引っ掛けて騙した麻薬取締り捜査官、不二子とつるんで俺を拉致しようとしたあの女だった。

「こりゃ参った。とうとう父つあんも、おさまるとこにおさまるってか。」

幸運を祈る、とばかりにTVのスイッチを切ろうとする。

カレンの様子がおかしい。

「どうした?」

「別に、、。」

「隠し事はよそうぜ、俺は君に何もかも話したつもりだ。俺たちが信頼できるパートナーになれなきゃいい仕事は出来っこない、君のやろうとしてる事にもうまく協力できない。」

「あの子、私の妹なの。」

「誰?」

「あの日本人の隣に座ってる子は、私が高校生の時家出した、二つ下の妹よ。」

「CIAのジョアン・スミスが?」

「所属してるのは本部の情報で知ってた。麻薬取締り捜査官は組織管轄が全く違うの。でもまさか、こんな所で会うなんて。」

たちまち大粒の涙をはらはらと落とした。大きな瞳はまばたきもせずに前を見つめている。何か過去の辛い出来事を思い出しているのだ。

横顔をしばらく見つめていたルパン、彼女が愛おしくてたまらなくなった。後ろから彼女を包むように抱きしめた。彼女はされるがままに涙を流している。

自分には分からない彼女の苦しみを、いっときでも忘れさせてやりたかった。頬に唇を押しつけると涙のしょっぱい味がした。

とうとうカレンは彼の胸に顔を埋めて泣き出した。

超フェミニストはどう慰めていいのか分からない。彼女をそばにあったソファーに横たえた。

今日までこの男にしては紳士のマナーを守ってきた。が、惚れた女とここまで四六時中一緒にいるなんて初めてだ。

孫悟空は自分に課していた心の箍(タガ)を、手錠もどきに一瞬にして外してしまった。

「ここでいい?」

「、、、いいわ。」

自分も脱ぎながら手際よく彼女の服を脱がす。

再び唇が近づいてきた時、カレンは観念したように目を閉じた。

しばらく時が過ぎた。

カレンは脱がされた服で体をそっと包まれた。

「一緒に行こ、上へ。」

カレンが目を開けると、彼は後ろを向いたままカジノに行く正装に着替えるところだった。

「スパイなんてやめっちまいな。そんな無理してるとは思わなかったな。ターゲットじゃなくて男としてつきあってくれるまで何にもしないよ。」

「ごめんなさい、そんなつもりじゃ、、。」

彼を嫌いなわけがなかった。でも何も言えない。

「別れた妹がこの上にいるんなら、是非会いに行かなきゃな。」

ジョアンと一緒にいるのは、ルパンを命がけで追っている男だと聞いた。

私のために?誰にも捕まらないため、殺されないためにあなたはここに潜んでいるのに、、。

カレンは起き上がって裸のまま後ろから彼を抱きしめた。そうせずにはいられなかった。

ネクタイ締めていたルパンの方が驚いて、彼女を振り返った。

そしてにっこり笑って言った。

「大丈夫、父つあんにも、君の組織にも気づかれないようにうまく会わせてあげる。」

「私、服持ってないわ、この前のドレス破れてるし。カジノに行くのにこれじゃ、、、。」

「まっかせ~なさ~い。」

隣の部屋から用意していた衣装を一揃い持ってきた。淡いチェリーピンクのカクテルドレス。パールのチョーカーとイヤリング。白い可愛らしいハイヒールパンプス。黒は好きではない。

「君とカジノで楽しもうと思って用意しといた。あ、それとこれも、、。」

一緒に揃えたドレスと同色のランジェリーも渡す。サイズまできっちり調べて。本人の言う通り女にはマメ・マメな性質(たち)らしい。

たちまち真っ赤になるカレン。毎夜ベッドを共にしている男相手に小娘みたいに初心(うぶ)な女だ。

それを見つめる純情男、もうメロメロ。

二人はカジノにふさわしいスタイルに着替え、腕を組んで上へ上がっていった。

もちろんルパンのほうは素顔と言うわけにはいかなかったが。

次回に続く。

日本の銭湯の地下にあるルパンアジトの構造は山上正月さんのお描きになってるルパン三世Yの6巻第23話でお確かめ下さい。

次元と五エ門が出口を間違えて、女湯の方へ上がってしまうという話。

ルパン三世のYとかMとか、モンキーパンチさんのルパンじゃないと思ってる人が結構いるけど山上さんのストーリーは粋で奇想天外で好きですね。

ルパンがいい男過ぎてちょっとTVアニメの主人公のルパンとイメージ違いますけどはまりますよ。

毎回見に来てる君、ありがとよ。来週は俺が父つあんと絡む話だ。題して「カジノ・サバイバル」だ。

え、古い映画の題名みたいってか?

映画より面白いんだな、これが。

次回、ま~た会おうぜ!(山田康雄さんの声で)

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